研究計画について:
この14年間(2011年~2025年)の研究テーマは、操作変数分位点回帰、パネル分位点回帰、コントロール関数アプローチによる内生性の制御、そして機械学習を用いた因果推論です。研究の主な焦点は、分位点モデルにおける内生性の問題と、機械学習を応用した因果推論手法の開発にあります。論理的な計量経済学の研究に取り組む一方で、企業レベルのパネルデータを用いて開発した計量モデルを適用し、金融や経済に関する課題の分析を行ってきました。
2015年8月から2016年7月まで、マサチューセッツ工科大学経済学部に客員研究員として滞在し、Victor Chernozhukov 教授の大学院講義「Mostly Dangerous Big Data (Causal Machine Learning)」や Joshua Angrist 教授の大学院講義「応用計量経済学: 政策評価」を履修しました。その間、家計レベルのデータや経済応用例を通じて、さまざまな疑似実験(quasi-experiment)の分析手法や因果機械学習の方法を習得しました。こうした知識を基盤として取り組んだ研究成果の一つが、共著論文(Chen and Hsiang 2019, Causal random forests model using instrumental variable quantile regression)であり、査読付き国際学術誌 Econometrics に掲載されました。本論文では、操作変数法による因果関係の識別に Athey, Tibshirani and Wager (2019, The Annals of Statistics) によって開発された Generalized Random Forests を適用し、モデルパラメータ推定に関する新しい因果機械学習手法を提示しました。さらに、操作変数分位点回帰を用いることで分位点ごとの処置効果を推定し、この手法の新たな側面として、分布全体に関する情報や各変数が分位点ごとの処置効果に与える影響度も明らかにしました。本手法を用いた米国の確定拠出年金(401k)参加に関する資産分位点分析では、従来研究と比較してもロバストな結果が得られました。これにより、経済学者が観察データに基づいて自然実験や疑似実験を活用し、因果関係を解明する道筋を示すことが可能となりました。
2020年から2027年にかけては、日本学術振興会科学研究費補助金を研究代表者として受給し、「因果機械学習に基づく分位点処置効果の計量解析とその経済学への応用」(課題番号20K01593, 基盤C)および「経済学における因果的機械学習を用いた最適ターゲティングの構築と評価」(課題番号24K04823, 基盤C)に取り組んでいます。その成果として、2021年4月には Econometrics に “Debiased/Double Machine Learning for Instrumental Variable Quantile Regressions” を発表しました(共著者の一人は米国マイクロソフトリサーチ社チーフエコノミストオフィスに所属)。さらに、2023年には共著論文 “Exploring Industry-Distress Effects on Loan Recovery: A Double Machine Learning Approach for Quantiles” を同誌に発表しました。2025年には、スタンフォード大学統計学科の研究者との共著による “Recent Advances in Causal Machine Learning and Dynamic Policy Learning” が WIREs Computational Statistics に掲載されました。近年(過去2~3年間)および現在進行中の研究では、因果機械学習を用いた異質的処置効果の推定と、最適なポリシールール(ターゲティング)の設計に注力しています。具体的には、台湾のEコマース・プラットフォーム(PChome eBay Co., Ltd.)と協力し、マーケティング領域において A/Bテスト(デジタル実験)を実施し、ランダム比較試験データを生成して、先端的な因果機械学習手法により異質効果を推定し、ポリシールールを提案しています。その後、提案したポリシールールの有効性を再度A/Bテストで検証し、異なるルール間の効果比較を行っています。今後は、因果推論に基づくエビデンスに基づいた政策形成(EBPM: Evidence-Based Policy Making)の実証研究や、因果機械学習を応用した計量経済学のさらなる発展を目指します。
計量経済学者として、私の教育方針:
教育方針としては、エビデンスに基づく議論能力の涵養と、実証分析スキルの習得を重視しています。計量経済学の講義では、経済学に関連する課題を計量的手法でどのように分析できるかを実例を交えて説明し、議論を深めます。その上で、R や Stata などのソフトウェアを用いたデータ分析の習熟を重視しています。特に、操作変数分位点回帰や因果機械学習を用いた分析を通じて、経済学上の仮説検証や因果推論を行います。ゼミ「経済学におけるデータサイエンス: 計量経済学を用いた因果推論」では、学年が進むにつれて英語によるディスカッションや資料利用を増やし、卒業までに英語で講義を受けられる能力を養成することを目指します。少人数制による教員との双方向コミュニケーションを重視し、学生の専門的能力の習得を支援します。ゼミ生は参考文献の引用にとどまらず、独自の研究成果に基づいた卒業論文の完成を目指します。これまでに複数の学生の卒業論文や修士論文を指導してきましたが、その中には University College London、University of California – San Diego、Johns Hopkins University、Washington University in St. Louis で経済学博士課程に進学した者や、Stanford University で統計学博士課程に進んだ者もいます。2017年6月から2018年8月には、九州大学瀧本太郎ゼミ、京都大学佐々木啓明ゼミ、台湾大学陳釗而ゼミとの合同ゼミを開催し、大学間交流やネットワーク形成を推進しました。また、2018年以降は東京国際大学で「経済学における機械学習」を担当し、受講生の中には英国でデータサイエンス修士号やロンドン大学シティ校ビジネススクール博士号を取得した者、さらには Facebook に採用された者もいます。さらに2019年には、指導院生 Nurazlaily Binti Mohamad Retha 氏(政策研究大学院大学院生)の修士論文が高く評価され、GRIPS の2019年度最優秀政策論文賞を受賞しました。
大学のプロジェクトに対して、学生に対して、どのような貢献ができるか:
大学プロジェクトおよび学生への貢献としては、米国(NYU・MITで計7年間)、台湾(6年間)、日本(7年半)での応用計量経済学と因果機械学習の研究・教育経験を活かし、理論と実証を結びつける形で新たな実証的アプローチを提供できます。具体的には、データ解析能力や政策効果の定量的測定を支援するとともに、学生には講義やゼミを通じて計量手法・実証分析スキルを習得させ、データ分析関連職において極めて重要な「結果を正しく解釈する力」を養成することができると考えています。


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